「うっせぇわ」に共感する陰キャな若者たち
ここ2ヶ月くらい「うっせぇわ」という曲が流行っている。この曲、「反抗期の中学生が聞いてそうで痛々しい」と言われることが多いが、歌詞を聞いてみれば、恐らく社会人になりたての20代前半の目線で歌われた曲であることがわかる。
僕はこの曲は所謂「陰キャ」が共感できる歌詞なのではないかな、と思う。そこで、歌詞を追いながらその心理について考察していきたい。
正しさとは
愚かさとは
それが何か見せつけてやる
ちっちゃな頃から優等生
気づいたら大人になっていた
ナイフの様な思考回路
持ち合わせる訳もなく
でも遊び足りない 何か足りない
困っちまうこれは誰かのせい
あてもなくただ混乱するエイデイ
ここは、要するに小さい頃から問題行動を起こすことなく、無難に過ごした結果大人になった、ということだろう。
僕が思うに、「優等生」というのは勉強やスポーツに努力してきたという意味ではなく、ただ喧嘩や争いを起こさずに過ごしてきた、という意味合いであると思う(自分では優等生だと思っているが、側から見ればただの地味な人)。
それゆえに大人になった今でも、「何か足りない」「遊び足りない」と感じている。
そして、困っている原因を生み出したのは優等生であった自分ではなく、自分以外の誰かだと思っているわけだ。
それもそっか
最新の流行は当然の把握
経済の動向も通勤時チェック
純情な精神で入社しワーク
社会人じゃ当然のルールです
「それもそっか」以下は、自分より年上の世代が作りあげている「社会人じゃ当然のルール」である。上の世代から説教されている気分なのだろう。これに対して、若者はこう叫ぶ訳だ。
はぁ?うっせぇうっせぇうっせぇわ
あなたが思うより健康です
一切合切凡庸な
あなたじゃ分からないかもね
嗚呼よく似合う
その可もなく不可もないメロディー
うっせぇうっせぇうっせぇわ 頭の出来が違うので問題はナシ
ここを要約すると、「あなたが思うより私は健全な人間だからいちいち口出しするな」といった感じだろうか。恐らく会社の上司やら先輩やらが、「そんなに大人しいようじゃ駄目だよ」みたいなことを言ってきたので、それに対して心の中で反論しているのだろう。
つっても私模範人間
殴ったりするのはノーセンキュー
だったら言葉の銃口を
その頭に突きつけて撃てば
マジヤバない?
止まれやしない
不平不満垂れて成れの果て
サディスティックに変貌する精神
ここ、模範人間だから人を殴ったりはしない、と主張しているが、別に人を殴らないことなんて当たり前なので語り手の「模範人間」に対するハードルの低さが窺える。
それ以下は文句を言い出したら止まれない、と言ったことをカッコよく言い換えてるだけ。
クソだりぃな
酒が空いたグラスあれば直ぐに注ぎなさい
皆がつまみ易いように串外しなさい
会計や注文は先陣を切る
不文律最低限のマナーです
「酒が〜マナーです」の部分は先輩や上司の発言、それに対しての「クソだりぃな」という心境。
はぁ?うっせぇうっせぇうっせぇわ
くせぇ口塞げや限界です
絶対絶対現代の代弁者は私やろがい
もう見飽きたわ
二番煎じ言い換えのパロディ
うっせぇうっせぇうっせぇわ
丸々と肉付いたその顔面にバツ
「くせぇ口」「丸々と肉付いたその顔面」は口煩い先輩や上司のもので、そいつらよりも私の方が現代の代弁者に相応しい(多数派である)という主張。
うっせぇうっせぇうっせぇわ
うっせぇうっせぇうっせぇわ
私が俗に言う天才です
この記事を書く前ここの歌詞知らなかったんだけど、ここは実際にそう(自分が天才だと)思っている訳ではなく、「自分は天才だから先程までの主張は間違っていない」という虚勢を張っているのだと思われる。
うっせぇうっせぇうっせぇわ
あなたが思うより健康です
一切合切凡庸な あなたじゃ分からないかもね 嗚呼つまらねぇ
何回聞かせるんだそのメモリー
うっせぇうっせぇうっせぇわ
アタシも大概だけど
どうだっていいぜ問題はナシ
基本的に今までの歌詞と同じだが、注目すべきは最後の最後に「アタシも大概だけど」が歌詞に入る点。
この言葉は「アタシは自分も大概だということがわかってますよ」という逃げの姿勢を意味しており、なんだかんだ文句を言いながら、自分も先輩や上司同様だ、と自虐的に述べている。
総評すると、この歌詞は「昔から喧嘩をしたりせずに無難に生きてきた若者が、口うるさい年長者に対して心の中で毒づいている」というものではないだろうか。心の中で毒づいたからと言って実際に争いを起こす訳でもなく、ただ不満を募らせている若者は恐らく多いだろう。
そういった若者たちの考えを代弁してくれている、という点がこの歌の流行った一つの理由なのではないだろうか。
個人的には、この曲のメロディーがメチャクチャ好きで、カラオケ行ったら歌いたくなってしまう。
また、叫ぶような感じで歌えるので、歌いながら自分の不満をぶち撒けられるのかなー...とも思う。こうした魅力的な曲調も流行の一因だろう。
いかがだっただろうか。確かに、「うっせぇわ」は反抗期の中学生が好みそうな曲ではあるが、意外にも共感できるのは社会的になりたての若者、特に上司に不満を感じながらも、中々自分の主張ができない人々ではないだろうか。
そういった若者の心の叫びを、この曲は代弁してくれているのかもしれない。
絶対絶対現代の代弁者は私やろがい
...確かにそうかもしれない。